
大切な犬ちゃんが息を引き取った後、「何かしてあげたい」という気持ちは、どの飼い主様も同じです。その想いに応える行為が、エンゼルケアです。
エンゼルケアとは、旅立った犬ちゃんの体を清め、毛並みを整えて、生前のような穏やかな姿に戻してあげる処置のことです。最後まで愛情を込めてお世話をする、いわば「最後の看護」といえます。
エンゼルケアは特別な技術がなくても、飼い主様の手で行うことができます。ただし、タイミングと手順を知っておくことが大切です。
この記事では、犬のエンゼルケアのやり方・詰め物の方法・費用の目安まで、ペット葬儀士である筆者がわかりやすく解説します。
犬のエンゼルケアとは?目的と意味

エンゼルケア(Post-mortem care)とは、亡くなった後に遺体を整える処置のことです。もともとは人の医療・介護の現場で使われていた言葉ですが、近年はペットの葬儀においても広く用いられるようになりました。
犬のエンゼルケアには、大きく3つの目的があります(※1)。
一つ目は、感染症の予防です。亡くなった後の遺体からは体液が漏れ出すことがあり、衛生的な処置を行うことが飼い主様自身や家族を守ることにもつながります。
二つ目は、犬ちゃんの尊厳を保つことです。生前のような穏やかな姿に整えることで、犬ちゃんの尊厳を守り、お見送りのときまでいつもの愛らしい姿でいさせてあげられます。
三つ目は、飼い主様の心のケア(グリーフケア)です。「自分の手で何かしてあげられた」という経験が、その後の悲しみの回復を助けることが、研究でも示されています(※2)。
エンゼルケアは義務ではありません。つらくてできないという飼い主様も、決して自分を責める必要はありません。できる範囲で、愛情を込めて行ってあげることが何より大切です。
⏱️ エンゼルケアは「死後1〜2時間以内」に始めることが大切

犬は亡くなった後、1〜2時間ほどで死後硬直が始まります。硬直が進むと、まぶたを閉じたり、手足を自然な姿勢に整えたりすることが難しくなります(※3)。
●死亡直後 ─── 体が柔らかく整えやすい状態
↓(1〜2時間後)
●硬直開始 ─── まぶた・口・四肢が動かしにくくなる
↓(12〜24時間後)
●硬直ピーク ─── 全身が硬くなる
↓(24〜48時間後)
●硬直解除 ─── 再び柔らかくなる(この頃には腐敗も進む)
「何も手につかない」という気持ちはよくわかります。ただ、できれば1〜2時間以内を目安に、エンゼルケアを始めてあげてください。
なお、犬ちゃんの体の大きさや室温によって硬直の速さは変わります。夏場や室温が高い環境では腐敗も早まりますので、できるだけ涼しい場所へ移してから作業を始めてください(※1)。
📋 【図解】自宅でのエンゼルケアに必要なもの
自宅でエンゼルケアを行う際に用意するものをまとめました。多くはドラッグストアや百均で揃えられます。
📄 ペットシーツまたは大きめのビニール袋(作業台に敷く)
🧺 タオル数枚(清拭用・姿勢固定用)
🩹 ガーゼまたはコットン(口腔・鼻・肛門の詰め物用)
💧 ぬるま湯(清拭用)
🚿 ドライシャンプーまたはペット用ウェットタオル
🪮 ブラシ(生前使っていたもので構いません)
🧊 保冷剤(タオルで包んで使用)
🧤 ビニール手袋(任意・衛生的に作業したい場合)

市販の「エンゼルケアセット」を使えば必要なものがまとめて揃います。詳しくは第6章でご説明します。
🐾 【図解】犬のエンゼルケアのやり方・手順5ステップ

自宅でのエンゼルケアは、以下の5つのステップで行います。焦らず、愛情を込めて、ゆっくり進めてください。
STEP 1 体勢を整える
↓
STEP 2 目と口を閉じる
↓
STEP 3 体を清める(清拭)
↓
STEP 4 詰め物をする
↓
STEP 5 グルーミングで毛並みを整える
STEP1 🐶 体勢を整える
死後硬直が始まる前に、犬ちゃんが眠っているような自然な姿勢に整えます。前足・後足をやさしく内側に曲げ、体を丸めた状態にしてあげましょう。横向きに寝かせて、手足をそっと胸の前や腹の下に添わせるイメージです。タオルを使って姿勢を支えると、形が崩れにくくなります。
力を入れすぎると骨折することがあります。硬直が始まっている場合は、そのままの姿勢を受け入れるか、24時間ほど経って硬直が解けてから整えてあげましょう。

STEP2 😌 目と口を閉じる
まぶたをやさしくなでて、目を閉じてあげましょう。力を入れる必要はなく、指の腹で静かに上から下へなでるだけで構いません。
口が開いている場合は、タオルやガーゼをあごの下に当てて支える方法と、リボンや細長いタオルを使ってマズル(鼻先から顎の下)をやさしく縛る方法があります。縛る場合は鼻先と顎の下を通して一周させ、きつく締めすぎないようにしてください。死後硬直が始まれば口は自然に固定されますので、硬直が進んだ後は外しても問題ありません。完全に閉じなくても、安らかな表情に近づけてあげることが大切です。

STEP3 🫧 体を清める(清拭)
ぬるま湯で絞ったタオルやガーゼで、体全体を優しく清拭します。目やに、よだれ、排泄物など、汚れている部分を丁寧に拭き取ってあげてください。
毛並みが汚れている場合は、ドライシャンプーを使うと水で濡らさずに洗浄できます。ただし体を濡らしすぎると腐敗が進みやすくなりますので、清拭は手早く行いましょう。

STEP5 🪮 グルーミングで毛並みを整える
生前使っていたブラシで、やさしく毛並みを整えてあげましょう。この工程は必須ではありませんが、犬ちゃんが最も美しい姿で眠れるよう、飼い主様の手で丁寧に整えてあげてください。グルーミングをしながら、「ありがとう」「よく頑張ったね」と話しかける飼い主様も多くいらっしゃいます。

🩹 犬のエンゼルケアの詰め物のやり方

詰め物とは、鼻・口・肛門などの開口部にコットンやガーゼを詰め、体液の漏れを防ぐ処置です。行っておくと安置中の衛生面で安心です。
まずコットンまたはガーゼを、開口部の大きさに合わせて軽くまとめます。ピンセットや綿棒を使うとやりやすいですが、指先でそっと押し入れても構いません。
鼻:両方の穴にそれぞれ少量ずつ。
口:歯と頬の間に沿わせるように軽く詰めます。
*これら2カ所は任意です。ペットちゃんの見た目を損ないたくない飼い主様は、行う必要はありません。お腹をしっかりと冷却してあげることで、体液の漏出リスクを抑えることができます。
肛門:特に体液が出やすい部位ですので、念入りに。
ただし詰めすぎは皮膚を傷める原因になります。隙間を塞ぐことを意識しながら、やさしく押し入れるようにしてください。
処置の際は感染症予防のため、使い捨て手袋の着用をおすすめします。
「詰め物をうまくできるか不安」という飼い主様は、動物病院やペット葬儀業者に依頼することもできます。無理をせず、プロに任せるのも大切な選択です。
エンゼルケアができたら、火葬当日まで犬ちゃんの体をしっかりと冷却し、涼しい部屋でゆっくりと寝かせてあげましょう。安置中の保冷方法や注意点については、以下のコラムで詳しく解説しています。
エンゼルケアセットとは?市販品の活用方法
「犬のエンゼルケアセット」とは、エンゼルケアに必要なアイテムをまとめたセット商品です。コットン・ガーゼ・清拭シート・ペット用ドライシャンプーなどが一式入っており、突然のお別れの際にも慌てず準備できます。
ペット用品店やオンラインショップで購入でき、価格は1,000〜3,000円前後のものが多く流通しています。高齢の犬ちゃんがいるご家庭では、事前に用意しておくと安心です。ただし、特別なセットがなくても、自宅にあるタオルやコットンで十分に対応できます。
犬のエンゼルケアにかかる費用の目安

エンゼルケアの費用は、どこで行うかによって大きく異なります。
自宅で飼い主様が行う場合、コットンやガーゼなどの消耗品のみで済みますので、費用はほとんどかかりません。市販のエンゼルケアセットを使っても1,000〜3,000円程度です。
動物病院でのエンゼルケアは、施設や処置内容によって異なりますが、3,000〜10,000円前後が目安です。カテーテルの抜去など医療的な処置が含まれる場合は、別途費用がかかることもあります。
ペット葬儀業者に依頼する場合、エンゼルケアを葬儀プランに含めて対応しているところも多く、火葬とセットで依頼すると費用を抑えやすいです。
動物病院・ペット葬儀業者でエンゼルケアを依頼する場合

自宅でのエンゼルケアに不安がある飼い主様や、医療的な処置が必要なケースでは、動物病院やペット葬儀業者への依頼がおすすめです。
動物病院では、点滴や医療チューブが挿入されたままの状態からの処置、または適切な衛生処置を含むエンゼルケアを行ってもらえます。かかりつけの動物病院があれば、亡くなった際にまず連絡してみましょう。
ペット葬儀業者では、遺体を美しく整えるためのグルーミングやメモリアルグッズの作成(鼻紋・足型・遺毛の採取など)とあわせて対応してもらえる場合があります。思い出を形に残したい飼い主様には、葬儀業者への依頼が心強い選択肢です。ただし「エンゼルケアに対応しているかどうか」は業者によって異なりますので、事前に確認してからご依頼ください。
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ペット火葬ハピネスでは、「自宅セレモニー葬プラン」にエンゼルケアが含まれています。
自宅で愛犬ちゃんをゆっくりとお見送りしたい飼い主様に、スタッフが丁寧に対応いたします。費用や内容のご相談は、お気軽にお問い合わせください。
エンゼルケアに資格は必要?
「エンゼルケアは資格がないとできないのでは?」と心配される飼い主様もいらっしゃいます。自宅でエンゼルケアを行うのに資格は必要ありません。飼い主様がご自身の手で行うことは、法律的にも問題なく、むしろ推奨される行為です。
「ペット葬儀士」や「ペット終活アドバイザー」などの民間資格は、ペット葬儀にかかわる専門的な知識や技術、対応力を習得するためのものであり、飼い主様個人が持つ必要はありません。
なお、動物病院や葬儀業者でのエンゼルケアは、経験豊富な専門スタッフが対応しますので、「自分でやることが不安」という場合はプロに任せることを検討してください。
🤍 エンゼルケアができなかった飼い主様へ

「やり方がわからず、満足にエンゼルケアができなかった」「突然のことでパニックになり、何もできないまま火葬当日を迎えてしまった」——そのような飼い主様もいらっしゃいます。
エンゼルケアができなかったことを、どうか責めないでください。エンゼルケアは、愛情の大きさを測るものではありません。犬ちゃんには、飼い主様と過ごした時間のすべてが伝わっています。毎日いっしょにご飯を食べ、お散歩を楽しみ、同じ時間を過ごした日々——それ自体が深い愛情であり、犬ちゃんにとっての宝物です。
たとえば、硬直が進んでいる状態でも、清拭やグルーミングだけでも行うことはできます。できることを、できる範囲で行うだけでも十分です。
まとめ
大切な犬ちゃんとのお別れは、突然やってくることもあります。そのとき、「何かしてあげたい」という気持ちがあるなら、エンゼルケアはその想いに応える最後のお世話です。
難しく考える必要はありません。タオルとコットンがあれば、飼い主様の手で行うことができます。完璧でなくても大丈夫です。愛情を持って、できる範囲でそっと整えてあげることが、何より犬ちゃんへの贈り物になります。
「自分ではうまくできるか心配」「丁寧に見送ってあげたい」という飼い主様には、ペット火葬ハピネスの『自宅セレモニープラン』をご検討ください。エンゼルケアから火葬・供養まで、スタッフが飼い主様のそばに寄り添いながらお手伝いいたします。
どうか、後悔のないお別れができますように。
【参照文献】
※1 2016 AAHA/IAAHPC End-of-Life Care Guidelines
※2 小野沢 栄里(日本獣医生命科学大学)
「獣医療におけるペットと飼い主の抱えるグリーフに配慮したケアを実践するためのアプローチ法の検討」
この記事の執筆者
ペット火葬
ハピネス 編集部 S・A
愛犬・愛猫・愛鳥など8匹以上を見送った経験を持ち、現在も愛犬と暮らす動物愛好家。初代愛犬を満足に供養できなかった経験からペット火葬ハピネスへ入社。あたたかなペット葬儀のための情報を発信。私生活では動物保護ボランティアへの支援を行っている。















