最近は庭が無くても、屋内で水槽を用意して鯉を飼う人も増えてきました。
美しく優雅に泳ぐ姿に「見ているだけで癒される」と人気の鯉ですが、病気などで突然死してしまうこともあります。
当コラムでは死因になりやすい病気や、その原因と対策などについて詳しくご紹介します。
この記事の監修者
高間 健太郎
(獣医師)
大阪府立大学農学部獣医学科を卒業後、動物病院に勤務。診察の際は「自分が飼っている動物ならどうするか」を基準に、飼い主と動物の気持ちに寄り添って判断するのがモットー。経験と知識に基づいた情報を発信し、ペットに関するお困り事の解消を目指します。
鯉の特徴と平均寿命
鯉は5~35度と幅広い水温に順応できるため、環境に順応しやすい生き物といわれています。
そのため、ペットとしては初心者でも飼いやすい部類に入るでしょう。
また平均寿命も比較的長く20~30年程度、健康状態の良い鯉なら50年以上生きる個体もいます。
飼育下の鯉の特徴
体長は30~60㎝程が一般的ですが、個体差・環境によっては70㎝以上になるものもいます。水槽飼育であれば水槽の中に収まるように成長していき、ある程度大きくなると成長が止まります。
雑食性で水の中にあるものは何でも食べます。貝類(タニシなど)、甲殻類(ザリガニ、藻エビなど)、昆虫の幼虫(トンボ、ユスリカなど)、環形類(ミミズ、ボッタなど)、雑魚やその卵、藻類、泥の中のミネラル分などを食べています。
鯉が死んでしまう原因とは?
鯉が死んでしまう原因には大きく分けて2つあります。
「環境・外的要因」
- 水質汚染・有害物質・感電・外敵に襲われるなど鯉以外の部分での死因
「病気・個体的要因」
- 先天的な遺伝子異常やウイルス感染など鯉自身に原因がある死因。
本来、寄生虫や細菌は屋外の池水にはどこでも必ずいるもので、どんな魚にも寄生します。
水質を含めた環境が整っていれば、鯉に害を及ぼすことはなく上手く共存しています。
しかし、環境が変化し、水質が汚染されるなどすると鯉の免疫力が低下、さらに寄生虫や細菌が増殖することで、鯉に感染し発症します。
死因としてよく見受けられる環境・外的要因
酸素欠乏症
その名の通り、酸素が足りていない環境下で起こるトラブルです。
複数の鯉を飼っている場合は、過密状態になり酸素の取り合いになっている可能性があります。
また、水温が上がると水に溶ける酸素の量が少なくなりますので、エアレーション等を使用したり、日陰を作って水温を上がりにくくしましょう。
死因としてよく見受けられる病気・個体的要因
コイヘルペスウィルス病
ウイルス性で強い感染力を持ち、なおかつ死亡率の高い病気です。
また、それまで健康そうに見えた鯉でも、ウイルスが活発になる初夏や秋になると、突然発症する例もあります。
ウオジラミ症
寄生虫が体に寄生し、毒液を注入しながら吸血されます。
患部から更なる病気を引き起こしたり、ストレスから段々と衰弱していく恐れがあります。
イカリムシ症
イカリムシ症は、先述した「ウオジラミ症」と似た、吸血する寄生虫のトラブルです。
白点病
その名の通り、体のあちこちに小さな白い点が現れる病気です。
発見が遅れて放置すると、数日で全身に白い点が現れます。
呼吸が阻害される悪影響があるので、普段から鯉の体を観察して早期発見ができるようにしましょう。
カラムナリス症
主にヒレや口が腐る病気です。
発症しているヒレは白くなりちぎれていき、口まわりのはただれていきます。
穴あき病
体の表面にえぐられたような穴が現れる病気です。
痛々しい姿ですが、一目でわかるのですぐに病気に気づくことができます。症状に合った治療をしましょう。
病気やトラブルの発見・対応が遅れると、死に繋がることも十分あり得ます。
また、異常が起こった場合は自己判断で治療をすることはなるべく避け、鯉を購入したお店や専門家に相談しましょう。
こんな症状・行動が見られたら要注意
鯉が死ぬ前の体調不良、病気の初期には様々な症状や行動の変化が現れます。次に挙げるような症状・行動があれば要注意です。
症状
・鱗に白い斑点が出る
・眼球が突出、または陥没する
・鱗が欠落する
・痩せる
・炎症、充血、出血
・腹部膨張
・白濁綿状の粘塊が体表に付着
・糞の状態が異常(浮き糞、連なり糞、ゼラチン状の糞など)
行動
・横転するようになる
・あまり動かなくなる
・体表を池底で激しく擦る、飛び跳ねる
・平衡感覚を失う
・食欲がない
・呼吸の異常
・水面で口をパクパクする
初期症状を見逃すと、一気に病状が悪化し死んでしまうこともあります。
小さな変化にも気付けるように、日頃から鯉の姿や行動を観察しておくことが大切です。
病気にしないための対策
この章では鯉を病気にしないための対策をご紹介します。
水温と水質の管理
鯉に適切な水温は15~25度といわれています。
ある程度の温度変化には順応してくれますが、25度以上になると水中の酸素量が少なくなってしまい、酸素欠乏症の原因になります。25度以上にはならないよう気を付けましょう。
水槽での飼育の場合は水量が少ないため、水質が変化しやすい分、ろ過効率の高い装置を使うようにしましょう。
ろ過装置が汚れたら、水をかけて軽く洗い流すように掃除します。
水替えの方法
頻繁に水換えを行うのは鯉にとっては大きなストレスになります。
水槽の掃除は月に1回程度、鯉を入れたまま底の石を軽くかき回してゴミを浮かせ、網ですくうようにしましょう。
水換え用の水は前日からバケツなどに汲んでカルキを抜き、適温になるようにしておきましょう。
餌やり
飼い始めは環境に慣れるまで3~4日は餌を与えないでください。
餌は1日に1回、食べきる量を与えます。食べ残しがあったら必ず網ですくい取ってください。
餌の与え過ぎは病気の原因になるだけでなく、糞の量が増える、ろ過装置の汚れにつながり、水質を悪化させてしまいます。
鯉は水温が25度くらいのときに一番食欲が出ますが、15度くらいまで下がると3~4日に1度の餌やりで十分です。水温が10度以下になると冬眠するため絶食します。
飼育環境
直射日光が当たらない場所で、雨などが入らないようにしましょう。
大きな物音がするような扉付近、人の出入りが激しい場所などは鯉が驚いてしまうので避け、飛び出し防止、また猫や鳥から狙われないように水槽には蓋を被せておきましょう。
また、鯉はストレスに弱い魚です。網で追いかけたり、何度も出し入れしたりするようなことは避けましょう。
また水槽や池の大きさに対して鯉の尾数を適正に保ちましょう。多すぎる場合、水質が汚れやすくなる、酸素不足になるなどの原因になります。
新しい鯉を迎える場合
新しい鯉を迎えた場合は、すぐに他の鯉がいる水槽に入れるのではなく、別の水槽で隔離して飼育し、メインの水槽の環境に徐々に近づけ、慣れさせてからにします。
隔離中に塩とデミリンなどの薬を用いて薬浴を行い、鯉を消毒しましょう。
これは「体表に付いた寄生虫や細菌を駆除するため」と、浸透圧の作用を利用して「鯉の生理機能を回復・調整するため」です。
これらをせずに元々飼っていた鯉たちの水槽に新しい鯉を入れた場合、新しい鯉が環境変化になじめず死んでしまったり、新しい鯉によって持ち込まれた細菌が原因で元々いた鯉が病気になってしまったりすることがあります。
病気になってしまったときには
気を付けていても鯉が病気になってしまうことはあります。
もし鯉に異常が見られた場合にはすぐにその鯉を隔離し、すぐに対策を施すのが基本となります。
応急処置をしたあとは鯉を購入したショップや専門家に相談し、早期発見、早期治療で鯉の健康を守りましょう。
全部の鯉に異常がある場合
池・水槽全体への処置が必要になります。
まずは水を3分の2から4分の3ほど取り替えます。ろ過装置は水をかけ軽く掃除しましょう。
餌やりを止め、エアレーション(エアポンプを使用し、水中に酸素を送り込む)を行いながら、病状に合わせた薬と塩を用いて薬浴を行います。
5~7日程経過しても回復の兆しが見えない場合は、再度3分の2ほどの水を入れ替え、水の量に合わせて塩を追加します。
7日程経っても回復しないようなら、症状の似た別の病気か、他の病気との合併症の可能性もあります。おこなった処置や経過を記録し、専門家に見てもらうようにしましょう。
病名が分からない場合
応急処置として餌やりを止め、新水を多めに入れ、酸素補給量を増やしましょう。
その間に「餌の量は適量だったか」「餌が古くなっていなかったか」「飼育尾数は多すぎではなかったか」「ろ過装置やエアポンプは正常に作動していたか」「水は汚れていないか」などを確認し、原因を探します。
コイヘルペスウイルス病
鯉(マゴイ・錦鯉)だけが感染するウイルス病で、人や他の魚にはうつりません。
発病した鯉は食欲減退、行動の不活発化、体表の粘液が増えて白っぽくなる、眼球が落ちくぼむなどの症状がみられます。致死率も高く、感染するとほとんどの鯉が死んでしまいます。
また、ウイルスなので下手な処理をすると川などに被害が拡大する恐れがあります。
飼っている鯉がコイヘルペスにかかった場合は?
コイヘルペスウイルス病は現在治療できる薬がありません。
この病気は持続的養殖生産確保法という法律で特定疾病に指定されており、発症が確認された場合には直ちに蔓延防止措置をとる必要があります。
もし、鯉に異常が見られたり、大量死してしまったりするようなことがあった場合には市役所の*農林水産部林業水産課に連絡し、対処してもらいましょう。
間違っても河川や水路に生き残った生物を逃がしたり、鯉の死骸を捨てたりしないでください。
*自治体によって名称は異なります。
まとめ
鯉は頭が良く、餌をくれる人の顔も覚えて寄って来てくれるそうです。餌を求めて集まり、口をパクパクさせる様はとても可愛らしいですよね。
そんな愛らしく癒してくれる鯉に、健康で長生きしてもらうためにも「水質の管理」「餌のやり方」「飼育尾数」に注意して、体調の変化にもすぐ気付けるようにしたいですね。
もし体調を崩してしまっても早期発見・早期治療で健康体に戻れることもありますので、日頃からよく見ていてあげてください。